日本のネットスーパーはどうしたら成功する?10X×小売企業の勉強会を開催しました
10Xでは、業界横断でフラットなディスカッションを行い、小売業界の未来を考えることを目的として、小売企業複数社を招いた少人数勉強会をスタートしました。今後も定期的に開催していきます。
今回は、食料品配達サービスを行う米国スタートアップ「Instacart(インスタカート)」の事例を分析し、日本のネットスーパーに置き換えて成功の要因を参加者全員で考察・議論しました。
(Instacartについては、10X代表の矢本のブログでも過去取り上げています。よろしければあわせてご覧ください。「Instacart S-1の解釈」)
「今後、取り組むべきことのヒントが得られた」と、小売企業様からの満足度が高かった勉強会の様子を簡単にご紹介します!
なぜInstacartは急成長を遂げたのか?
世の中には様々なオンラインショッピングがあります。その中でも、一度に多数の商品を購入し、数時間〜一日といった短いリードタイムで配達するネットスーパーは、特に難易度の高いオペレーションが求められます。
多くの企業がネットスーパーの運営に苦戦する中、アメリカで今年大型上場を果たした「Instacart」は、北米で10年以上デリバリー事業を行っている、ネットスーパーのパイオニア的存在です。
InstacartのWebトップページ
Instacartの売上は、日本円で約4兆円。日本のネットスーパー市場は約3,000億円なので、10倍以上の規模があります。
Instacartの店舗ごとの平均受注数は9.2件/日。平均売上金額は約15万円。この数字だけを見ると、特別大きな数字ではありません。
しかし、大手小売に絞ると1店舗あたり平均37件/日、年間6,000億円の売上にのぼります。InstacartのGMV(流通取引総額)は大手小売3社に43%依存し、同様に大手小売側も売上をInstacartに頼る相互依存関係ができあがっているのです。
Instacartがここまで急成長した背景には、「新型コロナウイルスの流行」があります。ロックダウン時の、食品や生活必需品の買い物を代行してくれる存在としてInstacartが爆発的に広まり、GMVはコロナを経て約4倍になっています。
ネットスーパーの成長は「継続率」にかかっている
では、なぜコロナの流行が落ち着いたあともInstacartは成長を続けているのでしょうか。
それは、Instacartでは「コホート成長率」が1.0倍を超えるよう、さまざまな取り組みを行っているからです。
コホート成長率とは、その年に初めてサービスを利用した顧客のうち、翌年以降継続している人はどの程度いるのか、またどの程度購入しているのかを調査したものです。例えば、2023年に初めてInstacartを利用した100人のユーザーが、平均して1万円分の商品を購入したとします。翌年半数のユーザーが離脱し継続者が50人になったとしても、平均購入金額が倍の2万円を超えれば、コホート成長率は1.0倍を超えるのです。
Instacartが重視している指標「コホート成長率」の計算式
なお、Instacartに限らず、ネットスーパーは継続して利用すればするほど、顧客の購入頻度は大幅に向上することが分かっています。
これは、使えば使うほどアプリのUIUXに慣れ、「こんな商品も買えるんだ」と分かってくるからです。
Instacartを成功に導いた具体的な施策とは
では、Instacartでは具体的にどうやって継続率を高め、平均顧客単価を上げているのでしょうか。勉強会では、配送方法とアプリUIの二軸で解説を行いました。
まず、「配送方法」についてですが、Instacartでは「いますぐ欲しい」「まとめ買いしたい」「記念日に向けてプレゼントを買いたい」など、さまざまな目的に対応できる配送オプションを提供しています。
配送方法や配送時間には複数の選択肢があるため、多様な顧客のニーズに合わせることが可能です。
次に、成長を促した「アプリUI」については、5つのポイントに絞って解説がありました。
①購入しやすい売り場を設計
・過去に購入した購入のタブを強化
・顧客に応じた商品の並び替え、商品データの詳細を掲載
②リアル店舗のような棚の並び順
・購入前のレジ前推薦(顧客に合わせて「これもどうですか?」と追加購入を勧める)
③デジタルクーポンやロイヤリティプラグラムとの連携
・顧客にあわせたクーポンを発行
・「あと◯円購入したら◯%OFF」などのプログラムを提供
④パーソナライズされた推薦やカタログ
・購買履歴に応じた商品の推薦
・専用のカタログの提案
⑤個別商品のセール機能
・メーカーと協賛し、売り場を工夫
顧客単価を引き上げるInstacartアプリUIの工夫事例
では、日本のネットスーパーはどうしたら成功するのか?
勉強会では、Instacartの成功事例を踏まえ、日本のネットスーパーを成長させていくために、どのような点が活かせるかという議論を参加者間で重ねました。
議論の中では、「コホート成長率」という馴染みの薄い指標への関心や悩みが話されたり、Instacartと顧客継続率の高さで類似性を持つ「生協の宅配事業モデル」について意見交換したり、「日本で持続可能なネットスーパー事業を構築する方法」について日米の文化・環境の違いからアイディアを出したりと、様々な話題で盛り上がることができました。
この他に現場感のあるトピックとしては、配送料設計のポイントや、店舗とネットスーパーでの価格設定などについても議論しました。
参加者の感想(抜粋)
今回の勉強会では、業種、地域、立場と様々な垣根を超えて議論が行われました。最後に、参加者からの感想を抜粋してご紹介します。
- ネットスーパーを持続可能とするには、1店舗1日あたり黒字を出す必要があると思った。そのためにどうしたらいいのか。こういった機会を活用して、みんなで協力しながら試行錯誤してみたい
- これまで、どの指標を追いかけたらよいかいまいちわからなかった。でも、この勉強会を受けて、コホート成長率をきちんと追いかけてみようと思った
- 大人になると、経験は増えるけど勉強する機会は減ってしまう。でも、今日参加してたくさんの学びがあり、勉強する機会はやっぱり大切だなと思った。今日学んだことは、早急に社に持ち帰って活かしていきたい
10Xは、Stailerの開発・提供だけでなく、ネットスーパー事業や小売業界の成長・発展を支援するパートナーとして、今後も勉強会や交流会を開催していく予定です。