スタートアップこそ「D&I実現を諦めてはいけない」 10Xが語るD&Iポリシー策定2年半の軌跡と課題
10Xでは、2021年4月に「10X Diversity & Inclusion Policy」(以下、D&Iポリシー)を公開しました。
多様な価値観・経験・能力を持ったメンバーが集まって共にチャレンジするからこそ、人々の生活を一変させるようなプロダクトが生まれる。そんな思いから、D&Iポリシーは生まれました。
それから2年後の2023年4月。10Xでは、社内横断プロジェクトであるD&Iプロジェクトを立ち上げました。なぜポリシーの策定から2年経った今、プロジェクトを立ち上げたのか。プロジェクトで何を実現しようとしているのか。D&Iプロジェクトメンバーであるコミュニケーションズ部・部長のricchaさんと、コーポレートオペレーションズ部のmanaさんに話を伺いました。
新卒でミクシィに入社し、アプリやECの新規事業に携わる。2014年よりYelp Japan2人目の正社員として東京エリアコミュニティマネージャーに就任。2016年1月より、1人目のPRとしてメルカリに入社。サービスPR、コーポレートPR、危機管理、ファンコミュニティなど担当。2020年4月からフリーランスとして、スタートアップのPRを支援。2020年10月より10Xに入社。
Corporate Operations(CorpOpsと略します)チームの山本です。社内ではmanaと呼ばれています。最近は人事制度のアップデートや労務関連の業務に携わっています。
同質な人たちだけで構成される組織にしたくなかった
——D&Iポリシーを公開してから、約2年が経過しました。当時、「アーリー期のスタートアップで取り組むのは珍しい」と話題になっていましたよね。2年経った今、なぜD&Iポリシーの策定に早くから取り組んだのか、改めて教えていただけますか。
10X Diversity & Inclusion Policy
中澤(以下、riccha):きっかけは、2021年の頭に代表の矢本からダイバーシティに関する「問い」をもらったことです。
その頃世間ではメルカリがD&Iを推進する社内委員会「D&I Council」の設立を発表したり、当時東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長だった森元首相の発言が問題になったりと、ダイバーシティへの関心が急激に高まっているときでした。
そんな折に、経営会議で話題に出たらしく突然矢本からSlackで「10XでのD&Iについて考えていきたい!」というお題が飛んできて。
当時の10Xは20人程度の組織でしたが、ちょうど私も採用に課題を感じていたタイミングだったので、早速ポリシーの策定に取り組み始めました。
——採用の課題とは、どんなことを感じていたのでしょうか。
riccha:今の採用活動を続けていたら、同質な人たちだけが集まる組織になってしまうな、と。
例えば「特定の領域で急速に事業を立ち上げ、3年で上場を目指す」が明確なゴールの会社なら、同じようなスキルや価値観、経験値を持った人たちでチームを作ったほうが、短期的にはスムーズにゴールを達成できる確率は高いかもしれません。一方で10Xのミッションは「多くの人の生活を変えるインパクトを生み出す」ことを志向しており、中長期でのチャレンジを前提とした組織です。時間や手間をかけてでも、社会全体にメリットがあるプロダクトを生み出していきたい。
今は小売チェーン向けECプラットフォーム「Stailer」の開発・運用をメインに行っていますが、今後別のプロダクトや事業を始めるとしても「社会にインパクトを」という根っこにある思いは変わりません。
また、当たり前ですが社会にはいろんな方がいます。社会全体にインパクトを与えたいなら、多様な視点が必要になってくる。中長期的なチャレンジに耐える組織を作りたいなら、規模が小さいうちから多様性について考えたほうが良い、と以前から思っていました。
あとは、当時の外部からの10Xに対するイメージも変えたくて。
——外から見た10Xのイメージ、とは?
riccha:私自身が入社するまで抱いていたイメージでもあるのですが、「ドライで怖い人たちが集まっている組織」だと思っていたんですよね……(笑)とことん成果や効率化にこだわる人たちが集まっているんじゃないか、と。
でも、実際中に入ってみると全然違いました。営利企業だから、成果や効率化はもちろん重視しています。それと同じくらい、個人の意思や価値観を尊重する人たちが集まっているんです。プライベートな家族や趣味の時間も大事にされています。でも、それが外部に伝わっておらず、「怖い」「ドライ」といったイメージを抱かれやすい。その結果、男女比率が8:2など、組織内に偏りが出ているのが現状です。このイメージを変えていかないと、多様なメンバーの採用は難しい。
当時私が採用担当だったこともあり、最初はダイバーシティの考えを盛り込んだ「採用ポリシー」として社内に案を出しました。でも、課題があるのは採用だけじゃない。働き方や評価にも課題があると社員からフィードバックをもらって。そこから社内はもちろん、社外からもたくさんフィードバックをもらい、何度も練り直したのが「10X Diversity & Inclusion Policy」です。
ポリシーの公開と同時に、社員の長期的な就業を支援する福利厚生制度「10X Benefits」の導入や、ポリシーに基づいた「事実婚・同性パートナーも法律婚と同様の制度を適用」「採用応募時に年齢・性別・顔写真・家族構成など選考と直接関係ない情報は不要の旨を明記」といった取り組みも行っています。
トップダウン、ボトムアップ両軸からダイバーシティを考える
——D&Iポリシーを公開した後の社内での変化を教えてください。
riccha:わかりやすい変化でいうと、この2年間で日本国内なら自由に居住地を選択できるようになったり、男女関係なく産育休を取るメンバーが増えたりしましたね。
公開した当初は、組織が拡大していくにつれ、D&Iへの関心や理解を維持するのが難しくなるんじゃないかと不安もありました。でも、策定前からD&Iへの感度の高いメンバーが多かったこと、また、策定後は入社者向けに3ヶ月に1度「D&I入門と無意識バイアス研修」を行っていることから、風土や理解は高い水準で維持できていると思います。ちなみに、社員数は当時の5倍以上になっているんですよ。
「D&I入門と無意識バイアス」研修資料より抜粋
——すごい!一方で、現在も感じている課題はありますか?
riccha:一番大きな課題は、人員のダイバーシティ、特にジェンダー面で女性比率がほとんど変わっていないことです。策定当時は社員20人中、女性は3人でした。現在社員数は120人以上になりましたが、女性比率は20%ほどと当時から増えていません。これは、策定当時、ポリシーは完成したものの、採用や登用などで「どんな多様性を、どれくらい持つべきなのか」という具体的な目標やルール策定にまでは落とし込んでいなかったからだと振り返りました。
10Xで多様な人材に活躍していただくには、D&Iポリシーを具体的な“HOW”に落とし込まなければいけない。この課題を解決するために、今年の4月にコミュニケーション本部、ファイナンス&コーポレート本部、HR本部の3部署横断のプロジェクトである「D&Iプロジェクト」を立ち上げました。
PJの目標や役割分担がまとまっているNotion
——D&Iプロジェクトではどんな取り組みをしているのでしょうか。
山本(以下、mana):2023年上半期は、「人・コミュニケーション領域における目標策定と実装」「ボトムアップから出た意見に紐づくサポート支援を行う」「企業価値とDEIの接続を説明可能にする」の、3つの大きな取り組みを掲げています。
まず1つ目の「人・コミュニケーション領域における目標策定と実装」。先程ricchaさんからお話があったように、現在はポリシーはあるけど、アクションに落とし込む目的や“HOW”がない状態です。各部署がD&I施策を自走できるよう、目的やHOWを一緒に考えて実装していきましょう、というのがこの取り組みです。
次の「ボトムアップから出た意見に紐づくサポート支援を行う」。1つ目がトップダウンに基づくもので、こちらはボトムアップに基づくものですね。「どんな人が自分をマイノリティだと感じているのか」「マイノリティだと思っている人はどんな課題感があるのか」などを社員に聞いて、10Xにおけるマイノリティの定義と課題を明確にしよう、というものです。
そして3つ目の「企業価値とDEI(Diversity, Equity & Inclusion)の接続を説明可能にする」。こちらは営利企業でD&Iを推進していくなら、企業価値にどう結びついていくか社内外にきちんと説明できるようにしていくべきだよね、というものです。
——この上半期、それぞれ具体的にどんな取り組みをされてきたか教えていただけますか。
mana:はい。まずは「人・コミュニケーション領域における目標策定と実装」について。例えば人事評価をつける役員やマネージャーに対して、評価会議の場でジェンダーGAPに対するレポーティングを実施しました。10Xにおける現状の共有や、評価バイアスについて伝えることで、評価のプロセスの中にDEI観点を入れ込んでいます。
riccha:「ボトムアップから出た意見に紐づくサポート支援を行う」については、今期は、「社内で自分はマイノリティだと感じるか」「自分らしいコミュニケーションが取れてるか」「社内で活躍できている実感があるか」など、社内メンバーにアンケートを行いました。
アンケート結果の抜粋
アンケートを実施する前は、「リモート勤務メインの地方在住者ほど、活躍している実感を得づらかったり、コミュニケーションの取りづらさを感じていたりするのでは」という仮説を立てていました。でも蓋を開けてみると、地方在住者ほどポジティブな結果が出ていて。好きな土地で働けるメリットは、想像以上に大きいのかもしれません。
一方で女性社員については、自分をマイノリティと感じるか否かに拘わらず、全体的にネガティブな結果が出たんです。つまり、自分がマイノリティだと感じる場面は少ないのに、なぜか自信がない女性が多いんですよね。
この結果を受けて、「まず女性社員の支援から始めよう」と動き始めたところです。
——具体的な支援策はこれから?
mana:はい。段階的に策定を進めていく予定です。
ただ、マイノリティである女性を支援するにしても押し付けの施策にはしたくなくて。10Xの女性社員がどんなところに課題感を抱えているのか、どんな支援が望まれているのか、なぜ今こう感じているのか、というのを個別にヒアリングしています。
また、今はリモート勤務メインのメンバーから大きな不安や不満はあがっていないけど、「雑談がし辛い」という声はあがっています。現状大きな課題ではないけれど、組織が大きくなるにつれて「雑談の多寡」が働きやすいかどうかにつながるかもしれない。
こういった、いずれ課題になるかもしれないことにも、先回りして施策を立てていきたいですね。
メンバー以上に、経営陣がダイバーシティへの関心が高い組織
——3つ目の「企業価値とDEIの接続を説明可能にする」の具体的な活動についても教えていただけますか。
mana:この活動の目的は、いわゆる「人的資本経営」の実践です。DEIの推進・実行をカルチャーとして根付かせるだけでなく、定量的な企業価値にも接続できるフレームワークや方程式がないかを検討しました。プロジェクトメンバーでCorporate Strategy所属の前原さんがドラフト案まで作成してくれたのですが、その段階で一旦ストップしているんです。というのも、ドラフト案をSlack上で経営陣に共有したときに、高い熱量の意見や質問をたくさんもらって。その結果、「担当者に任せるのではなく、経営メンバーも一緒にディスカッションしたい」とオーダーをもらい、仕切り直ししているところです。
プロジェクトメンバーからのアイディアに対し、代表の矢本からの熱量高いフィードバックが入ったSlackの一コマ
——経営陣の関心も高いのですね。
riccha:10Xには経営陣含めダイバーシティに感度の高いメンバーが多いのですが、代表の矢本は創業当時から頭の中にあったようです。
10Xは、短期的ではなく中長期に社会課題を解決していく会社です。そのためには、創業者の自分と似たタイプの人たちばかり集まってもダメ。いろんな観点からフィードバックをくれる、違うタイプの人たちと一緒にやっていくことが大事。そんなことを常々言っていましたね。振り返ると、矢本に「私にどんな期待をしていますか?」に問いかけた際の答えのひとつもD&Iの点でした。「自分(矢本)は排他的に見られやすいという自覚があるので、それを補ってくれる存在が必要だと思う」と。
経営陣の関心が高いテーマだからこそ、ディスカッションには時間がかかるんですけどね(笑)。でも、「緊急性はないけど会社にとって大事なことだから」と妥協しないのは、10Xの特徴だと思います。
——ありがとうございます。最後に、今後D&Iプロジェクトをどう進めていきたいか、お二人の考えを聞かせてください。
mana:D&Iプロジェクトが立ち上がってから約4ヶ月。正直、施策を打って、それが社内のアウトカムとしてはまだ成果が出ていません。でも、PJ化して推進する過程で得たものはあったと感じています。上半期が終わるまでの残り期間で、アウトプットをしっかり出して会社の資産にしていきたいですね。
riccha:D&Iプロジェクトは、今は社内のメンバーに対して行っているプロジェクトですが、いずれはエンドユーザーにも価値提供をしていきたい。性別や年齢、国籍、障害の有無などあらゆるバックグラウンドに関係なく、誰にとっても使いやすいアクセシビリティの高いプロダクトを提供できる企業にしていきたいんです。それが結果的に、「企業価値とDEIの接続を説明可能にする」ことにも繋がるはず。
やりきろうと思うと、とてつもない時間がかかるかもしれません。でも、10Xは中長期的に社会課題を解決していく組織ですから。今後も妥協せずに粛々とやっていければ、と思っています。
執筆・仲 奈々(@nanapan0728)
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