内定承諾率20%→90%へ。エンジニア採用の半年間を振り返る
「エンジニア採用がうまくいかない……」
人材採用において、特にこうした課題を抱えている会社は多いのではないでしょうか。今や「超売り手市場」で競争が激しくなっているエンジニア採用。実は10Xも、半年前まで「エンジニア採用」に大きな課題を抱えていました。
エンジニアからの応募数も少なく、内定承諾率も低い──こうした課題を解決すべく、半年前からエンジニア採用に対する向き合い方、採用フローなどの変更に取り組みはじめました。この半年で応募数も増え、内定承諾率も上がるなど、良い変化が生まれてきています。具体的にどのような点を変えていったのか。エンジニア採用の変遷について、HRの萩原美緒(@miopooo)、CTOの石川洋資(@_ishkawa)が振り返りました。
面白法人カヤック、LINE、メルカリでソフトウェアエンジニアとして複数のモバイルアプリの立ち上げを経験。その後、メルカリで同僚だった矢本と10Xを創業し、CTOとしてプロダクト開発全般を担当する。
クックパッド株式会社で採用の立ち上げから上場以降まで携わる。その後、海外事業や子会社の新規事業を経験。北海道に移住し、2019年に無添加おやつの開発を行うコロッケ株式会社を創業。併行して2022年2月に10X入社。青森県出身、2児の母。ビールが好き。
半年前に生じていた、エンジニア採用「2つの課題」
──10Xのエンジニア採用における変化について、改めて教えてください。
石川:まず、半年前の10Xのエンジニア採用の状況について話をすると、当時は採用に関するアクションが継続できていませんでした。そのため応募数も月ごとに波があり、また内定承諾率も低く、選考の途中で辞退になってしまうこともよくありました。
当時のエンジニアリング本部は緊急のプロダクトの開発対応に追われている部分が多く、同時並行で採用も進めなければいけなかった。事業計画上、人員を拡大していく必要はあることは全員わかっており、テコ入れが必要であることも理解していたのですが、全くアクションがとれていませんでした。改善に向けた筋道が十分に立てられていない。そんな状況でした。
──その状況から、どうエンジニア採用が変化したのでしょうか?
石川:萩原さんが入社してから、エンジニア採用に関するアクションがきちんと確保できるようになり、その結果として毎月の応募数もコンスタントに確保できていますし、選考プロセスも見直したことで内定承諾率も上がってきました。結果的には、この半年でエンジニアの採用数は格段に増えました。
半年前は非常につらい気持ちでしたが、今は目指すべき方向が見えてきたので、闇が晴れてきました(笑)。この調子でアクションを加速させていけば、事業上に必要な人材を仲間に迎えていけるという感触も持てています。
──エンジニア採用を変えるにあたって、まずは何から着手したのでしょうか?
石川:エンジニア採用における課題は、「選考プロセスが重い」と「採用のアクション数が確保できていない」というものでした。まず、選考プロセスに関してはもともと、試験的に一緒に働いてもらう“トライアル”というプロセスを設けていたのですが、エンジニアは引く手あまたな状況もあり、多くの人が当たり前のように10社ほど見ている。時間も限られている中で、選考プロセスが重いと候補者の優先順位はどうしても下がってしまいます。そのため、長く時間をかけて見極める“トライアル”というプロセスから、確認したいポイントの的を絞って短時間でしっかり見極めるプロセスに舵を切ることにしました。(※現在もエンジニア以外の職種では、トライアルを実施中)
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また、採用のアクション数に関しては代表の矢本からも「アクション数が全然足りていないんじゃない?」と言われていたんです。採用計画に対して、コンタクトできている人の数がすごく少なく、自分自身も労力がかけられていませんでした。その課題に向き合い、まずは採用のアクション数をきちんと確保していこう、となりました。
──そのタイミングで萩原さんが入社したと思います。当時のエンジニア採用の状況について、正直どのような印象を抱いていましたか?
萩原:入社前に外から見ていたイメージでは、10Xはエンジニア採用も含めて採用自体がうまくいっていると思っていたんです。だからこそ、10Xにトライアルで入ったときに応募が全然来ない状況であることを知り、すごく驚きました。
ネットワークの“中と外”にアプローチしていく
──萩原さんが入社されてから、(応募者を増やすための)エンジニア採用の改善が進んでいきました。エンジニア採用を変えていくにあたって、萩原さん、石川さん、エンジニアチームでどのような役割分担で進めていったのでしょうか?
萩原:最初は私が旗振り役となり、「月に30件のカジュアル面談をやりましょう」と明確な目標を決め、リファラル採用を推進していきました。エンジニアの皆さんに声をかけて、「前々職で同じチームだった」「前職で斜めの関係だった」などテーマを設定し、過去に働いたことのある人をスプレッドシートで書き出してもらったんです。その後、それぞれ30分ずつ面談の時間をもらい、「どの人に、誰からどうやって、いつ声をかけるか」を決め、最初の1カ月はひたすら月次のカジュアル面談件数を追いました。
石川:改めて当時を振り返ると、開発も非常に忙しく、採用にはアクションの量が必要だとわかっていても、なかなかやりきれていない状況がありました。そうした中、萩原さんに入社してもらい、先導役になってもらったことで周囲を巻き込みアクション量を増やしていけたのは大きな進歩だったと思います。
リファラルが一番良いかどうかは分からない部分もありますが、それまでは全く手がつけられていなかったので、何も判断ができなかった。ただ、リファラルを萩原さんがやり切ってくれたことで、リファラルで出来ること、またリファラル以外でアプローチする方向など、いろんな方向性が見えてきました。それはすごく大きな成果だったと思います。
──リファラル以外に、候補者へのコンタクト数を増やすために、どんなことをやったのでしょうか?
萩原:リファラル採用は社員数が増えていかなければアプローチできる層が枯渇していってしまいます。だからこそ、同時にエンジニアと企業をマッチングする転職サービス「Findy」を活用し、4月ごろから自分たちのネットワークの外にいる人たちにコンタクトしていくことに取り組み始めました。Findyはあくまでマッチングツールなので、マッチングした人に対してスカウトを送り、カジュアル面談を通して応募いただくための背中を押すもの、として活用しました。そこから面談の数もどんどん増えていったんです。
ただ、社内のエンジニアの皆さんにいきなり「カジュアル面談をしてください」と言っても、経験のない人は何を話せばいいか分からないですし、お時間をいただく方とお互いの目的が一致していない状態でスタートしても時間の無駄になり、どちらも不幸になってしまう。そのため、誰もが不安を抱えずにカジュアル面談をできるよう「カジュアル面談プレイブック」を作成したほか、受け答えのベストプラクティスをまとめた「想定問答集」も作成しました。
プレイブックや想定問答集に沿って、各エンジニアが分担してカジュアル面談をやるようになった結果、カジュアル面談の数も安定するようになってきましたし、何よりカジュアル面談から選考のプロセスに乗ってくださる人の割合も増えました。
カジュアル面談から採用につなげるために行った工夫
──カジュアル面談は必ず人事が担当する、と決めている会社などもあります。その点に関しては、どのような役割分担をしているのでしょうか?
萩原:組織や事業に関する興味が高い方の場合、初回の面談を人事が担当することもあります。それ以外の場合は、技術スタックやご意向ごとに適したエンジニアがカジュアル面談を担当しています。一方で選考においては、10Xでは「エンジニアの選考はエンジニアがやるべき」というポリシーがあるため、基本的には選考判断に人事が加わることはありません。
石川:チームで一緒に働くのはエンジニアですから、大事にしているスキルや価値観はエンジニア組織にいる人が責任を持って判断する。それが採用のあるべき姿だと思っています。
カジュアル面談に関しては、ベストな体験は「候補者が話したいと思っている人ときちんと話せること」です。
カジュアル面談を少しでも有意義な時間にするために、10Xの基本的な情報や成し遂げたいこと、組織のカルチャーなどがまとまった資料は事前にお渡しするようにしています。事前に知っておいてほしい情報はインプットしていただいた上で、さらに候補者が次のキャリアで何を達成したいか、どういうスキルを持っているかといった情報を伺って、社内で最適なメンバーを提案するようにしています。
──カジュアル面談の質、体験を向上するために他にやったことはありますか?
萩原:カジュアル面談から選考プロセスに至る割合が高いメンバーがいたので、その人のカジュアル面談に同席して、良いと思ったポイントをプレイブックに反映し、全体に展開しました。具体的に良いと思ったポイントは、共通の話題を見つけて話を盛り上げるのが上手で、さらには10Xであればどういう活躍ができそうかを伝える点です。一方的に話をするのではなく、相手の話も聞いた上で「あなたのここにマッチの可能性を感じる」としっかりお伝えするので、30分のカジュアル面談が終わったときには候補者がある程度入社後についてイメージができている状態になっている。このようなノウハウの展開を進めています。
──カジュアル面談で、どのメンバーが話すかはどうやって決めているのですか?
萩原:カジュアル面談を担当する人のスキルなどをまとめた「カジュアル面談マップ」というものを作成しています。それをもとに、候補者のバックグラウンドなどを照らし合わせて最適な人を提案しています。
各エンジニアの技術に関連するタグや前職、現在のチームなどの情報が整理されている
約20%だった内定承諾率が80〜90%まで上がった理由
──先ほど「内定承諾率が低かった」と言っていましたが、当時の内定承諾率が低かった原因は何だったのでしょうか?
石川:先程もお話しましたが、半年ほど前に選考プロセスを変えたんです。選考プロセスを変える前は、トライアルという形で Slack、Notionのアカウントも付与し一定期間一緒に働くという選考を進めていたので、候補者の方も入社後にどういう成果を出せそうかというイメージを持てたり、意思決定に必要な情報を多く得られていました。ただ、それだと選考プロセスが重すぎてエントリーのハードルが高かったので、選考プロセスを短縮化したところ、候補者とのコミュニケーション量が減ってしまったんです。
10X側が評価したい観点は十分に確認できるプロセスにはなっていたのですが、候補者が10Xを選ぶ理由となるための情報や体験を提供するという視点が抜け落ちてしまった。その結果、4月ごろの内定承諾率は20%ほどに落ち込むなど、なかなか承諾してもらえない日々が続きました。
──その状態をどのように改善していったのでしょうか?
萩原:過去1年間で内定を辞退された方の理由を洗い出したり、私が入社後内定を辞退した方に選考プロセスの感想や辞退理由などをヒアリングしたりして、どこに原因があったのかを突き止める作業をしました。
そして、その結果を石川さんやEM(エンジニアリング・マネージャー)に共有し、「◯◯がボトルネックだから、優先度を上げて解決していきたい」という話をしました。危機感を共有した上で、候補者の方とのコミュニケーション量と質を変えることに注力したんです。「内定承諾率改善」をプロジェクト化し、issueを洗い出して優先順位をつけ、タスク化。そして毎週石川さんと1on1で進捗確認する、を徹底しました。
採用フェーズごとに候補者の方が抱くであろう心理状況を考え、対応するアクションを実行
──当時と今を比較して、具体的に「変わった」と思うポイントはなんですか。
萩原:候補者がなぜ10Xを選ぶべきなのか、なぜ我々が10Xに来て欲しいと思っているのか。「Why 10X」「Why You」を伝え、納得してもらえるようなコミュニケーションを構築していきました。転職によって何を実現したいか、次の会社でどういうことをしたいかなど、その方のキャリアのことを理解した上で石川さんに申し送りしています。それにより、石川さんも候補者が10Xで働く姿をイメージできているので、オファーの段階で具体的な活躍ポイントを伝えられている。候補者もなぜ、自分が行くべきかが納得できているので内定承諾率が上がりました。現在、内定承諾率は80〜90%ほどの数字になっています。
石川:入社後の活躍のイメージを膨らませてほしいので、最終面接の時間も30分から60分に伸ばしました。事前にNDA(秘密保持契約)を結び、いまの経営状況や注力ポイントなどをしっかりお伝えするようにしています。会社が置かれている状況を共通認識として持ち、どういうイシューに取り組んでいるのか、入社後にどういう役割の果たし方すべきかを話しているので、候補者も「こういう活躍の仕方ができそう」「何を達成できたら事業が伸びそう」というのが理解しやすくなったのではないかと思います。
萩原:加えて、10Xは普段主にリモートワークで働いており、選考もすべてリモートで完結します。ただ、「会社の中の様子がわからない」という不安を持つ方もいらっしゃいます。それを解決するため、画面シェアでNotionのページやSlack、Uniposなどをお見せしています。それらで会社のカルチャーがイメージできるそうで、安心材料になっています。
カジュアル面談がなくても「応募したい」と思える状態をつくる
──振り返ってみて、エンジニア採用が変化した要因は何だったと思いますか。
萩原:10Xは私が入社する前から「自分たちのチームメンバーは、自分たちが採用しなければいけない」という共通認識ができていたんです。そのため、採用に関するいろんなことが動き始めたら、エンジニアからお礼を言われて、びっくりしました。採用活動が加速し始めると「やるべきタスクが増えた」ということで嫌がられることが多いと思っていたのですが、10Xでは採用が動き始めて、たくさんのメンバーからお礼を言われた。採用を“自分ごと化”している人が多かったことは振り返ってみて成功要因のひとつだったと思います。
採用に携わるエンジニア陣からmioさんへ寄せられた感謝のUnipos
石川:もともと、矢本が「採用は各部門がオーナーシップを持ってやるべき」ということをずっと言ってきていました。彼自身も先行してBizDevが採用の成果を出した一方で、エンジニアはなかなか自分自身が成果を出せていなかった。そうした前提があり、萩原さんが入ってリードしてくれたことで採用がまわせるようになっていきました。事業計画上、明らかにエンジニアが足りていないというのは全社で合意されていたので、採用をまわせる仕組みができあがったことで、みんながオーナーシップを持って採用に向き合うことができたのが良かったと思います。
──今後、エンジニア採用において取り組みたいことを教えてください。
萩原:カジュアル面談は候補者に丁寧なアプローチができるのですが、その分時間はかかっています。今後はカジュアル面談を経なくても、常に一定の数の方が「10Xでエンジニアとして働くのが面白そうだ」「10Xに応募したい」と思っていただけるような状態をつくれるよう、情報発信にも力を入れていきたいです。Stailerはどういうもので何を目指しているか、10Xはどういう組織かが届くべき人に分かりやすく届いている状態をつくっていきたいと思います。
石川:短い期間で取り組むべきアクションにはしっかり取り組んできていて、それが成果につながっているのが現状です。今後はそのアクションに複利を効かせるかたちで、長期的な視点で活動していかなければいけないと思っています。それが情報の発信です。普段から情報がきちんと発信できていると、応募の母数が格段に多くなりますし、声をかけたときに候補者が10Xのことを認知してくれている状態になる。説明コストが下がるなどいろんなメリットがあると思うので、そこに向けてより投資をしていきたいと思っています。
ありがたいことに10Xの名前は聞いたことがある、と言っていただくことが多いですが事業の具体的な内容や、プロダクト開発の特徴、その面白さや課題などは、まだまだ伝えられていないと思っています。そのあたりの情報を発信していき、会社や事業についてワクワクしていただける方をひとりでも増やしていきたいです!
週次ミーティング中の一コマ
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