VCに訊く、不況下でのスタートアップの戦い方と10Xへの期待

2022/7/27


テック企業の株価が下落するなど、景気後退を起因とした“不況”が到来した、とも言われています。市況が変化する中、スタートアップは何を考え、経営していくべきなのでしょうか。今回、10Xの株主でもあるDCMベンチャーズの原健一郎さん(@kenichiro_hara)をゲストに迎え、代表の矢本真丈(@yamotty3)と一緒に不況下でのスタートアップの戦い方や10Xに期待することについて聞きました。

インタビューした人

      

10X CEO 矢本 真丈 /  DCMベンチャーズ プリンシパル 原 健一郎

本記事は、2022年6月11日に公開した、10XのPodcast「10X.fm」のエピソードを記事化したものとなります。ぜひPodcastも併せてお聞きください。


市況が変化する中、スタートアップは何を考えるべきか

──直近では米国のテック企業の株価が急落するなど、市況にも大きな変化が生じているのではないかと思います。現在の市況について、原さんはどう思いますか。

:まず、市況は大きく2つの要素に分けられます。ひとつは一般的な会社の業績の話、もうひとつは会社の業績に対してどれぐらいの評価をしてくれるか、という話。後者はいわゆる、マルチプルと言われるものです。基本的には、その2つは全く別の視点での話で、不況と言われているのは後者のマルチプルがつきにくくなっている話で、前者の業績についてはテック企業は引き続き好調です。

ただし、同じ売り上げがあったときにいくらで時価総額で評価してくれるか、いわゆるマルチプルはアメリカでもだいぶ低くなっています。例えば、SaaS企業のマルチプルも昨年秋の最も高かったときと比べて、3分の1ぐらいになっています。

これはSaaSに限った話ではなく、国内外のさまざまな企業が影響を受けていて、どこも高かったときと比べて3分の1、4分の1の数値になっているんです。

2020年、2021年の2年間はある意味“バブル”のような状況だった。コロナ禍で多くの人がたくさんのテックツールを使うようになったと思います。会議ではZoomを使いますし、新たにShopifyを使って商売を始めた人もいると思います。そうしたテック企業の業績はすごく伸びて、この2年間で株価が上がりました。それが今は落ち着きを見せ、2019年ごろの数値に戻ったっていうのが、今起きてることかなと思います。

──日本でも私たち10Xを含めて、シリーズB前後のステージのスタートアップはこの市況に対して、どのような点を気にしたらいいのでしょうか。

:業績と評価で分けて話をすると、業績は今後も伸び続けていくと思います。これから数十年、数百年かけてテクノロジーが進化していくことは間違いないですし、より多くの人、より多くの企業が新しいテクノロジーを入れることも間違いない。テクノロジーの進化も浸透も増えていく中で、テック企業の売り上げ自体はまだまだ伸びていくはずです。

一方でマルチプル(評価)に関しては、はっきりと分かりません。2020年、2021年の2年間は特殊とも言えるくらい、評価が過剰に高かった。コロナ禍で各国の政府が金融緩和を行い、その恩恵を一番受けたのがテック企業だったというのもあると思います。そうした点も踏まえて、この2年ほどはあまり自然な状態ではありませんでした。

その状態には戻らないだろうなと思いつつ、これ以上下がるかどうかは分かりません。ただ、事業計画や資金面は保守的に考えておくべきかなと思います。


それを踏まえて、スタートアップにどういう影響があるのか。一番影響を受けるのは、IPO直前のレイターステージのスタートアップだと思います。例えば、上場企業と同じぐらいの売上がある会社があった場合、同じようなビジネスをしてたときに投資家から見ると「なんで上場企業A社の時価総額100億円なのに、同じだけの売上規模のスタートアップB社の時価総額が200億円なんだ?」という状況に今はなってしまっているんです。

過去2年間はスタートアップの評価額も高く見られていたのですが、今は上場企業の方が安く株が買えてしまう。そういう意味で大変なのがレイターステージです。その影響が段々とシリーズC、シリーズBに移ってきているという感じかなと思います。シリーズB以降で時価総額が100億円を超えているような企業は、より冷静に自分たちの本当の評価を考えて、今後の資金計画を考えていってもいいのかなと思います。

ただ、これは全員が全員、不景気で先行きが不透明だからコストカットし、コンサバティブな事業を作るべきというわけではありません。会社によっては攻めるべきフェーズのところもある。企業ごとにブレーキを踏むか、アクセルを踏むかは異なるかなと思います。

参考:原さんのブログ
不況下の事業計画の見直し - 攻めるべきスタートアップ、守るべきスタートアップ

株主から見た10Xの可能性、市況が変化する中での強みとは?

──原さんから見た、今の10Xの現状はいかがでしょうか。

:僕のようなVC(ベンチャーキャピタル)やスタートアップの多くは、今までどれくらい成長しているか、どれくらいの売上があるかを重要視しており、成長志向が強かった。一部の企業は別だと思いますが、多くの企業はコストを少し軽視してでも、成長を最優先していたのではないか、と思います。

そうした中、10Xは昔からコスト感覚が強い。これは代表の矢本さん、CFOの山田さんの性格も関係していると思います。すごく効率的に成長してきた企業で、どれだけ少ないバーンで事業を回したかという"効率性"を表す指標「バーンマルチプル」が業界内でも業界でも上位5%に入るくらい良い。これだけ効率的に経営しているスタートアップは、なかなかいないのではないかと思います。それでいて、10Xはただコストを抑えた経営をしているだけでなく、きちんとグロースしている。そのグロース率もSaaS企業の中ですごく高いんです。

10Xが提供する小売エンタープライズに特化したEC/DXプラットフォーム「Stailer」(ステイラー)は顧客からの引き合いがすごくあり、それでいて契約してもらった後に顧客がStailerを違う店舗に導入しているので、NRR(売上継続率)の指標もすごく高い。仮に今年の営業がそこまで上手くいかなかったとしても、自動的に翌年も売上が積み上がる仕組みができていて、なおかつ顧客からの引き合いも強く、コストにも敏感。この組み合わせにより、業界でも類を見ないぐらい高いバーンマルチプルになっています。


Podcastでは「10Xのオフィスを見るとコスト感覚がわかる」という話しも飛び出しました

──先ほどブレーキを踏むか、アクセルを踏むかは企業によって異なると仰っていましたが、10Xはアクセルを踏むべきということでしょうか。

:間違いなくそう思います。攻めるべきかどうかはスタートアップの経営状況次第ですが、バーンマルチプレイが高くて、グロースもしていて、コスト面にも余裕がある企業は間違いなくアクセルを踏むべきです。

── CEOである矢本さんからもコメントをいただければと思うのですが、いかがですか。

矢本:確かに2021年までは市況が良いと言いますか、いろんなスタートアップが多額の資金調達をしている状況を横目で見ていたわけですが、自分たちがまた資金調達できるとは限らないという考えは常に持っていました。それこそ米国のアクセラレーター「Y Combinator」の創業者であるポール・グレアムが提唱した、スタートアップが起業家の生活費をギリギリまかなえる程度の利益を上げることを示す「Ramen Profitable(ラーメン代稼ぎ)」は、自分がタベリー(※10Xが創業期に提供していた献立アプリ)を手がけていた頃からずっと頭の中にありました。

その後、Stailerに注力するようになってからも、事業上のミッションである購買体験を良くするためにパートナー広げていく、GMVを伸ばしていくということと同時に、10Xが仮に資金調達できなくなったとしても、アライブできる状態にしておく。その視点を持って常に経営してきています。正直、市況が良かろうが悪かろうが、自分のスタンスはそんなに変わらず、目の前のものをコントロールできるものに集中する。それが10Xっぽい経営のスタイルなのかなと考えています。

──もう少し原さんに伺いたいのですが、事業ドメインも市況に左右されるものと、そうではないものがあるかなと思います。Stailerは小売などの日用品の買い物の領域ですが、ここは市況に影響されない領域なのでしょうか。

:Stailerは導入するまでが大変な分、導入した後にやめづらい。いわゆる、スイッチングコストがすごく高いので、影響は比較的少ないのかなと思います。

将来的には「オープン化」を目指し、Satilerを進化させていく

──ここからは矢本さんの考えも伺いたいと思うのですが、直近のSatilerについてどう考えているのか教えてください。

矢本:Satilerはパートナー企業に導入し共にサービスを構築する、その上でパートナー企業の売上高を伸ばしていくという2つの観点からパートナーの成功を支援します。それが私たちの収益にも繋がっていく。そういう事業モデルです。

今のSatilerはプラットフォーム自体の機能ラインナップを大きく拡大しながら、パートナーの数も広げていく。車輪の両方を同時に回してるような状況です。昨年導入いただいたパートナーの数と比較すると、今年は大体、3〜4倍ぐらいのパートナーさんに導入してもらっていますし、GMVも2〜3倍ぐらいに成長で着地するだろうな、という見込みです。

それだけ聞くと、すごく順調そうに見えるかもしれませんが、今後はスケーラビリティが事業の成長にとって、すごく重要な問いになると思っています。

例えば現在ではひとつの契約を取るまでに数ヶ月、あるいは年単位の時間がかかってしまうこともあります。また契約後にパートナーとサービスをリリースするまでに数ヶ月単位の時間がかかってしまうこともあります。その時間をどれだけ短くすることができるか。例えば、Stailerが気になったら、翌日契約している世界にするにはどうしたらいいのか、契約したら翌日にサービスが世の中に出てお客様が注文できる状況にするにはどうしたらいいのか。このサイクルを縮めていくことが私たちのグロースのサイクルを早くしていくことにも繋がりますし、コスト構造をもっと良くしていくことにも繋がる。その2つがスケーラビリティを担保していくために必要なことだと思っているので、最終的な時間を縮めるために必要なことをやっていきたいと思っています。


そういう意味では、Stailerがシームレスに使えるような世界に近づけるためにエンジニアリングへの投資をしっかり行っていけば、すごく拡張性のあるプラットフォームになるのではないかと思います。将来的にはプラットフォームを外部の第三者のベンダーに開放できる状態まで仕上げ、パートナー企業と近い地元のWeb開発業者さんが地元の小売企業を支えるためにStailerを使うという世界を作りたいと考えています。このようなプラットフォームを開発していくため、いろんな人材を積極的に迎え入れていきたいなと思ってます。

参考:矢本のブログ
Stailerはどういった”プラットフォーム”になるのか

──求める人材像は1年前と比べて変わってきてるのか。10Xがどういう人材を特に迎えたいと思っているのかも教えてください。

矢本:エンジニアリングの観点で言うと、1年前はサーバーやアプリケーションなど分野を横断して開発できる人を募集してます、という風に話していました。ただ、今はStailerがプラットフォームとして広がりを見せているので、私たちもいろんな強みや関わり方をされる人を迎えられる状況にあります。例えば、テスト戦略に専門性を持ったエンジニアの人、あるいはセットアップや設定ファイルを作るなどの業務を自動化することに関心が強い方など、各分野に特化した強みがある人が活きやすい機会が溢れています。1年前と比べると、一口にエンジニアって言っても、いろんな人が活躍できる機会があるのは大きな違いかなと思います。

これはエンジニア以外の職種でも全く同じことが言えます。いろんな関わり方ができる機会は増えているので、関心ある人にはぜひ採用情報を見ていただけると嬉しいですね。

──最後に原さんが10Xに期待するところを教えてください。

:繰り返しになりますが、10Xは今まで効率的に経営をしてきて、今回市況がどうなるかは全くわからない中でも、そこを不安視せずに経営していけると思います。そして、何よりも真面目な性格の経営者である矢本さんが、最初から「何十年もかけてやるんだ」という気持ちを持っているので、株主としても焦りはないです。

逆に、今後どうやって矢本さんを含めた10Xのメンバーがグロースを作っていくのかは楽しみですし、今後まだまだグロースの可能性がたくさんあると思っているので、この効率性を保ちながら、よりグロースしていってほしいなと思います。

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