プロダクト目線で振り返る3年間。プラットフォーム化までの歩みと今後の挑戦【Stailer3周年企画 】
10Xが開発を行う「Stailer(ステイラー)」はスーパーマーケット、ドラッグストアなどの小売チェーンがECを立ち上げるためのプラットフォームです。お客様向けのアプリや、ピッキング・配送を管理するオペレーティングシステムなど、EC運営にあたって必要なプロダクトを一気通貫で提供しています。
Stailerのリリースは、遡ること2020年5月。初めはネットスーパーのモバイルアプリに特化したサービスとして提供を開始しました。そこから3年が経ち、現在Stailerは10社以上のパートナー企業と事業を進めています。
Stailer3周年の節目に、プロダクト・ビジネス、2つの側面から、Stailerの成長を振り返ります。(ビジネス編は6月6日公開予定)
今回の10Xブログでは、プロダクト編。前半では、Stailerの成長を支えてきたPdMの浦さん(@ysk_ur)・ソフトウェアエンジニアの山口さん(@yamarkz)に「3年間の3つのターニングポイント」を聞き、Stailerの歩みを振り返ります。後半では、CTO石川さん(@_ishkawa)による3年間の総括、そしてこれからの10Xの挑戦について教えてもらいました。
PdM目線で振り返る3つのターニングポイント
グリー株式会社でデータ分析に携わった後、ランサーズ株式会社にて新規事業責任者を経験。その後、株式会社ZOZOにてPMチームのマネージャーとして、広告事業の立ち上げ、PMチームの組成、AI導入の推進、大型リニューアルなどを担当。2021年5月に10Xへ入社。
——浦さんがこれまで10Xで担当されてきたことを教えてください。
浦:10Xには、2021年3月ごろから業務委託として関わっており、5月に正式に入社しました。時期としては、薬王堂様のローンチ直後ですね。
10Xと薬王堂が共同で「ドラッグストアDX推進プロジェクト」開始 ネットで注文、ドライブスルーで受取可能な「P!ck and」アプリを提供 | 株式会社10X
株式会社薬王堂ホールディングス子会社の株式会社薬王堂(本社:岩手県紫波郡矢巾町、代表取締役社長執行役員 : 西郷 辰弘、以下薬王堂)とチェーンストアECの垂直立ち上げプラットフォーム「Stailer」を展開する株式会社10X(本社 : 東京都中央区、代表取締役CEO 矢本 真丈、以下10X)は共同で「ドラッグストアDX推進プロジェクト」を開始します。第一弾となる今回は、薬王堂の商品をスマートフォンから注文し、店頭または店舗駐車場で車上受取(ドライブスルー受取)できるアプリ「P!ck and(ピックアンド)」を提供開始します。
https://10x.co.jp/news/2021-03-15/
入社後はライフ様のPdMをしており、10Xでは初めての業務システムの立ち上げに向け、スタッフアプリ、管理画面を利用したオペレーションシステムの構築などのプロダクトマネジメントを担当し、2021年の夏ごろに初のリリースをしました。その後、PdMのメンバーも増えていき、2022年2月以降の5社のローンチを担当しました。
直近では、ドメイン体制への移行に向けた検証、事業部と開発チームのコミュニケーションラインの整備、プロダクトロードマップの作成などを進めています。
——浦さんにとって、Stailerのターニングポイントを3つ挙げるとすると?
浦:1つ目が2022年2月のアルビス様のリリース、
北陸エリアNo.1スーパー「アルビス」がStailer導入。店舗受け取り型ネットスーパーを2/21より開始 | 株式会社10X
株式会社10X(本社:東京都中央区、代表取締役CEO 矢本 真丈、以下10X)は、北陸最大手の食品スーパー「アルビス」が手掛けるネットスーパー、アルビスネットスーパー「らくらくスマホオーダー」の提供を2/21より開始します。本サービスは10Xが運営する小売EC向けプラットフォーム「Stailer」を通じて提供します。
https://10x.co.jp/news/albis-bopis-start/
2つ目が2023年1月のレジ前推薦機能と特集管理機能の提供、
小売ECプラットフォーム「Stailer(ステイラー)」が 「レジ前推薦機能」と「特集管理機能」の提供を開始 | 株式会社10X
株式会社10X(本社:東京都中央区、代表取締役CEO 矢本 真丈、以下10X)は、同社が提供する小売ECプラットフォーム「Stailer(ステイラー)」を利用する小売事業者向けに、AIが”ついで買い”をおすすめする「レジ前推薦機能」と、季節商材等おすすめ商品の販促機能「特集管理機能」の提供を開始しました。 ネットスーパー・ネットドラッグストアにおいて”商品との偶然の出会い”を創出する機能の充実を図り、従来では実現が難しかった新たな商品発見機会の拡大を目指します。
https://10x.co.jp/news/stailer-ai_recommend-special_feature/
3つ目が2023年4月の直近に行われた、ドメインベースの開発体制への移行です。
ドメインベースの開発体制への移行 - 10X Product Blog
CTOのishkawaです。 10Xの開発チームは、4月1日からドメインベースの開発体制に移行しました。 ここで言うドメインとは、注文やピックパックや配達などの業務領域を指す言葉です。ドメインベースの開発体制に移行するということは、開発チームの分割単位をドメインにして、各ドメインを担当する開発チームが決まっている状態にするということです。 組織移行の背景 これまでは、開発チームの分割単位をパートナー企業としてきました。各パートナー企業を担当する開発が決まっているため、パートナー企業の目線でプロダクトの未熟な面があっても迅速に対応できますし、それによって事業機会を掴めたケースもありました。 一方…
https://product.10x.co.jp/entry/2023/04/28/080000
Stailerがプラットフォームになるまでの奮闘
——1つ目のアルビス様のローンチについて、どのようなターニングポイントだったのでしょうか?
浦:2022年2月のアルビス様のローンチは「Stailerが本格的にプラットフォームとなり複数のパートナーへの展開を進めていこう」という方針になって以降、初めてのリリースでした。
実はアルビスのローンチを進める裏側では、中部電力ミライズコネクト様(2022年3月リリース)・クリエイト様(2022年4月リリース)・スギ薬局様(2022年6月リリース)…と複数の、業態もさまざまなパートナーがローンチに向けて動いている状況でした。
今は新規パートナーのローンチに向けた必要な事項の整理も進んでいますが、当時はプロダクトとして動いているものはあるが、何を決めるべきかが整理はされておらず1つ1つ整理しながら前に進めていました...(苦笑)各社の業務プロセスや、何を定義すればサービスをリリースできるのか、ひとつずつ整理しながら進めていたので、巻き戻して「ここを決めないと!」ということも多々ありました。
複数社のローンチに向けた開発を進めながら次回以降の新規パートナーのローンチを楽にするための型作りをしていた時期でしたね。
そんな荒波をなんとか乗り越え、会社全体でStailerの横展開を進められたのは、1つのターニングポイントです。この頃を転機として、Stailerは「プラットフォーム」になっていきました。
また、当時は既存パートナー向けのチームと比較すると、かなり少ないメンバーで新規の複数社のローンチに向き合っており、スケジュールや開発するものの不確実性を減らすことの重要性が高まり、この時期からスクラム開発が導入されていきました。
Stailerのデモを実施する浦さん
パートナーの要求に答える中でも、「10Xとしてやるべきこと・やりたいこと」を深く議論し、実現できるように
——2つ目のターニングポイントである、レジ前推薦機能と特集管理機能について教えてください。
浦:レジ前・特集管理は、10Xが主導的に要件の定義を行い、エンドユーザー目線に立った機能を能動的に作ることができたリリースでした。これまでは導入を起点とした不足している機能やサービスを補う開発が主体でしたが、この時期以降、少しずつ10Xとしてやりたいこともやれるようになってきたと思います。レジ前推薦機能は、機械学習エンジニアによって導入されました。特集管理機能をこの時期にリリースできたことで、今では各パートナーの様々な施策を支える役割を担っています。
——3つ目のターニングポイント、ドメインベースへの組織移行について教えてください。
浦:最後に挙げたのが、直近の組織体制の変更についてですね。これまではパートナーに向き合う形での開発チームでした。これによって重要な事業機会を得られたり、プロダクトの不十分な部分に対して迅速に対応が可能でした。
ドメインベースの開発体制への移行 - 10X Product Blog
現在は、上記のようにドメインごとのチームに分かれ、各チームが持つイシューについて、深く濃い議論を展開できるようになりました。今回の体制変更は今後、Stailerの在り方にポジティブな影響を与えていくと思います。
——この3年を振り返り、PdMの視点で達成できたこと、またさらに挑戦していきたいことを教えてください。
浦:自分が入社した頃を振り返ると、10Xメンバーもまだ小売業界に詳しくなく、各パートナーから学ばせていただく機会がすごく多かったんです。パートナー各社と一緒に議論を繰り返し、試行錯誤をする時間を経て、多くの現場で利用されるプロダクトを作ることができたと思っています。
今後はプロダクト自体が発揮できる価値をさらに増やし、また尖らせていきたいと思っています。小売の領域は多様なサービスを展開しており、まだまだStailerでのカバー範囲は十分ではないので、それらをカバーしていくことや、新たなイシューを探索し、実験的なサービスをリリースをする機会を増やしていきたいです。
Software Engineer目線で振り返る、3つのターニングポイント
株式会社Gunosyにて新規メディアの開発とグロースに携わった後、子会社であったLayerXの立ち上げとブロックチェーン技術の研究開発、技術コンサルティング業務を経験。 株式会社Housmartで中古マンションメディア「カウル」やSaaSプロダクト「プロポ」の開発を経て、2020年9月より10Xへ入社。サッカー観戦と料理が趣味。
——山口さんがこれまで10Xで担当されてきたことを教えてください。
山口:2020年9月に入社し、SWE(ソフトウェアエンジニア)として開発全般に携わっています。Stailerのリリース直後はちょうどトライアル選考を受けており、10Xとしても「Stailerに注力していくぞ!」という時期でした。
最初の1年はサーバーとアプリ両方の開発に携わっていました。プロダクトが成長するにつれて、開発の主軸をサーバー側に移していき、最近では金銭や個人情報を主に扱うお会計チームの開発を推進しています。
——山口さんにとって、Stailerのターニングポイントを3つ挙げるとすると?
山口:1つ目は、2020年7月にあったWhole Productに向かうための舵を切る大胆な意思決定。
2つ目は、ライフ様の初リリースで、
10Xとライフ「ライフネットスーパーアプリ」を提供開始 〜売上100億円を目指すライフのEC事業をデジタル面で支援〜 | 株式会社10X
チェーンストアECの垂直立ち上げプラットフォーム「Stailer」を展開する株式会社10X(以下10X)は、首都圏と近畿圏で275店舗のスーパーマーケットを展開する株式会社ライフコーポレーション(以下ライフ)と、ライフが運営するネットスーパー「ライフネットスーパー」初のモバイルアプリ版となる「ライフネットスーパーアプリ」の提供を開始します。
https://10x.co.jp/news/2021-03-08/
3つ目は、2023年3月のライフ様の100店舗突破とフルリプレイスのリリースです。
小売ECプラットフォーム「Stailer(ステイラー)」、100店舗に到達した「ライフネットスーパー」全店に提供 | 株式会社10X
株式会社10X(本社:東京都中央区、代表取締役CEO 矢本 真丈、以下10X)は、同社が提供する小売ECプラットフォーム「Stailer(ステイラー)」が、首都圏と近畿圏で297店舗のスーパーマーケットを展開する株式会社ライフコーポレーション(以下ライフ)が運営する「ライフネットスーパー」全店舗に導入されたことをお知らせします。また、「ライフネットスーパー」は2023年3月15日に東有馬店でサービスを開始し、100店舗に到達しました。
https://10x.co.jp/news/stailer-life-100/
Whole Productへの切り替えは、Stailerにとって大きな意思決定だった
——1つ目のターニングポイントについて、詳しく伺えますか?
山口:リリース当初のStailerは、既に運営しているネットスーパーと連携し、サイトコントローラーで動くモバイルアプリを提供していました。
リリース後、小売企業の方から「これ、どうやって作ってるの?」といった問い合わせが増える中で、ネットスーパーへのニーズの高さを感じ、やはり自分たちでネットスーパーの機能を全部つくっていけるようにしよう!という意思決定があったと記憶しています。
ゼロからネットスーパーの運営に必要な裏側のシステムも全部作るWhole Productへの方針転換は、Stailerにとって大きなターニングポイントだったと思います。今考えると、非常に大きな転換点ですが、当時は緊張感もなく自然な決定で「より大きな価値を生み出せる方向に進もう」という感じで話が進んでいきました。
現在Stailerはスタッフアプリ・管理画面・お客様アプリの全てを提供するプラットフォームへと成長
https://speakerdeck.com/10xinc/zhu-shi-hui-she-10x-culture-deck?slide=15
Stailerに寄せられた、熱量の高いレビューを見て「PMFしているな」と感じた
山口:また、イトーヨーカドー様のアプリリリース後、アプリ内にレビュー促進機能は実装されていないにも関わらず、自然とApp Storeでアプリへのレビューが増えていました。当時はレビュー内容がSlackに自動で流れてきており、熱量の高いお客様のコメントがたくさん寄せられていたことが印象的でした。各レビューの評価が高いだけではなく、同時にサービスへの要望も色々書かれており、そうしたコメントを見ると、プロダクトがお客様に受け入れられ、PMFしていることを強く実感しました。
——当時の月報を振り返ると、2020年6月ごろにWhole Productへと方針展開していますね。
2つ目のターニングポイントについても教えてください。
山口:2つ目は、2021年のライフ様のネットスーパーのリリースです。
当初、ライフ様とは当初モバイルアプリの提供のみから始まりましたが、段階を追って裏側のオペレーションシステムもStailerで提供するようになりました。内部的に、Whole Productとしてサービスのリプレイスを行った時期があり、ここは2つ目のターニングポイントだと思います。
このタイミングで、ライフ様のネットスーパーの運営を支える全てのシステムがスタッフアプリなども含めてStailerで提供されるようになりました。社内にピッキングラボを作ってオペレーションの検証を行ったり、実際にプロダクトを現場で試すべく何度も実店舗に足を運んで開発していたのもこの時期です。
10X社内に設置されたピッキングラボで何度も検証が行われていました
当時まだまだWhole Productとしての実績がない中、パートナーの信頼を勝ち取るために、エンジニアの喜多さん(@kitak)がプロダクトのデモを数週間で作ってパートナーにお見せするなど、地道な頑張りを経てたどり着いています。今振り返ると、大変な日々で、結構な背伸びをして機会を掴んできたと思います。
ライフネットスーパーへの100店舗提供は、1サービスの成長を強く感じた瞬間
——この時期がないと今のStailerはないですもんね。最後に、3つ目のターニングポイントについて教えてください。
山口:3つ目は、2023年3月に出したライフ様のネットスーパー提供100店舗到達と、フルリプレイスのプレスリリースです。
先ほどから話に出ている通り、ライフ様は以前からのパートナーであり、Stailerのフルシステムを使用した店舗が100を超えたことはとても印象的でした。
各店舗の状況も異なる中で、拡大がなかなか難しい状況もあったのですが、少しずつ試行錯誤を進め、現在は100店舗を超えて広がりつづけています。プラットフォームとしての機能改善による成果も出始めており、1つのサービスとしてここまで成長できたことが、感慨深いです。
——3年経って現在のこの状況は、山口さんの入社ごろの想定と比べていかがですか?
山口:当時の想定より進んでこられた、という実感があります。一方で、これまでの歩みを振り返ると、決して簡単で楽な道ではなく、大変なことの方が多かったなと思います。良い面も悪い面も含めて、変化の大きい3年間でした。途中では大きなインシデントなども経験し、「もうダメかもしれない」と思った瞬間もあったのですが、諦めずにここまで成長してこれたのは、組織全体の努力とちょっとした運、スピリチュアル的ですが本当に限られた機会を目の前で掴んだ結果だと感じています。
——ここまでPdMの浦さん、SWEの山口さんの目線で振り返ってもらいました。
最後に、プロダクト・開発の責任者であるCTOの石川さんに、3年間の振り返りを聞いてみました。
CTO石川による総括
面白法人カヤック、LINE、メルカリでソフトウェアエンジニアとして複数のモバイルアプリの立ち上げを経験。その後、メルカリで同僚だった矢本と10Xを創業し、CTOとしてプロダクト開発全般を担当する。
この3年間の功績は「小売業界に入り込み、現場の方たちに使ってもらえるサービスへと成長したこと」
——Stailerの3年間を振り返っての所感を教えてください。
石川:Stailerは3年前に考えていた以上に小売業界に入り込み、現場の方たちに使ってもらえるサービスへと成長しました。Stailerを主軸として事業がまわっていること自体が喜ばしく、それはひとえにこの3年間で、現場の期待に足るようなプロダクトを作れたという証左なのではないでしょうか。
今後目指すのは「Stailer単体で、多くのパートナーにとっての真の事業価値を作ることができる状態」
——今後、Stailerを通じて実現していきたいことはありますか?
石川:この3年でStailerは大きく成長してきましたが、一方でレバレッジはまだまだ効かせられておらず、今後はStailerが人一倍稼げている状態を作らないといけないと考えています。
Stailerの仕組みを説明する石川さん
Stailerは、まだプロダクトとしても原石の状態。なぜかというと、現時点では「人がカバーすれば使える」「プロダクトを活用して、人が価値を産んでいる」という状態だからです。今はGrowthやBizDevの社内メンバーが、パートナーのサポートや議論に時間やコストを多く費やしています。必然的に、事業の収益性としてもまだまだ十分とは言えません。
現在は、プロダクトの資産を頑張って作っている状況で、「プロダクトそれ自体がお金・価値を生み出せる」という状態にまでには到達していない。今後は、人力のカバーありきではなく、Stailerというプロダクトが単体で多くのパートナーにとっての真の事業価値を作ることができる状態まで、プロダクトを作り込んでいかないといけないと考えています。そのために、必要な機能をさらに検討し、プロダクトとしての普遍的な価値を高めていく必要があります。
——まだまだこれからがプロダクトとしても正念場、ということですね。ありがとうございました!
3年目を迎えたStailer。これからも10XのメンバーはStailerを通じて、身近な人の生活に深く関わる領域での挑戦と模索を続けていきます。
Stailer3周年企画、ビジネス編は6月6日(火)公開予定です!