「世界が混乱している時こそが、事業成長のチャンス」グローバル・ブレイン百合本代表が語る、10Xに投資を決めた理由

2025/5/26


「10xを創る」というミッションのもと、日本の食品小売という生活インフラの構造課題にテクノロジーで挑む10Xは、2025年4月に総額21億円の資金調達を発表しました。人口減少、労働力不足、デジタル化の遅れなど、困難が山積するこの領域で、持続可能性をもって長期でコミットしていく──そんな10Xの姿勢に共感し、リード投資家として出資を決めたのが、1998年の創業以来、25年以上にわたりVC業界を牽引し、数々のユニコーン企業を支援してきたグローバル・ブレイン代表の百合本安彦さんです。

なぜグローバル・ブレインは10Xへの投資を決めたのか?「厳しい」と言われる食品小売業界への資金調達には、どんな困難があったのでしょうか。資金調達の舞台裏を振り返るとともに、長くVC業界を見てきた百合本さんが考える「成功が期待できるスタートアップ」について伺っていきました。

スタートアップの成功は、経営者の「不屈の精神」にかかっている

──まず、百合本さんが矢本さん(10X代表)と初めて会ったときの印象を教えていただけますか。

百合本:矢本さんは、我々の出資先であるスマートバンクの堀井翔太さんから紹介していただきました。堀井さんのことは非常に信頼していますから、その紹介ということもあって会う前から期待は大きかったですね。

さらに、矢本さんのプレゼンを聞いて、「これは私の好きなタイプの経営者だ」と感じました。

──百合本さんの「好きなタイプの経営者」とは、具体的にどのようなタイプでしょうか?

百合本:困難な状況でも粘り強く耐えて、そこから上昇できるようなタイプ。言うなれば、「耐える力」や「不屈の精神」を強く持った経営者ですね。

だいたいのスタートアップは、最初の事業計画通りにはまず進みません。事業を進める中で計画との乖離が生じ、困難に直面する。そして資金を使い果たしてしまい、「この事業は失敗だった」と諦めてしまうのです。

しかし、投資家の方々の貴重なお金を預かって投資をしている我々ベンチャーキャピタルは、投資先のスタートアップがそんな弱気では困ってしまいます。だからこそ、逆境に負けない粘り強さを持った経営者に、私達は投資をしたい。そのような経営者かどうかを見極めることが、私たちの投資判断において非常に重要になります。矢本さんには、最初にお会いした時からまさにその精神を感じました。

──矢本さんのどういったサインから、「不屈の精神を持っている」と感じ取られるのでしょうか?

百合本:これは25年以上、年間200人以上の経営者に会って身についた“勘”のようなものですね(笑)。
あとは、私自身がそのタイプの経営者だったんです。特に創業して最初の10年間は、何度も壁にぶつかりました。あの頃を振り返ると、よく辞めずに続けられたものだと思います。でも、それでも諦めなかったから、今があるのです。

矢本さんの話を聞いていても、大変な時期を乗り越えて今があり、そしてこれからも上昇していくんだろうな、と感じました。

──では、矢本さん。グローバル・ブレインに投資をお願いした理由を教えていただけますか。

矢本:誰から出資を受けるか、その人がどういう人なのかという点に最大の期待を置いています。今回のラウンドでは、グローバル・ブレイン、何より百合本さんに投資していただきたい、という思いが強くありました。

百合本さんからもお話があったように、堀井さん経由で百合本さんをご紹介いただいて。当初は30分だけと言われていた面談が、結果的に1時間もじっくり話を聞いていただき、その場で手応えは感じられました。

──グローバル・ブレインには、充実したバリューアップチームもありますよね。10Xとして特に期待していること、これから一緒にやっていきたいと思っていることはありますか?

矢本:我々のような小さいスタートアップでは、絶対に一社だけではカバーしきれない機能が必ずあります。そういった領域全般についてご支援いただきたい、と百合本さんにはお伝えしました。早速色々なチームで連携をはじめており、特に直近はビジネス領域に留まらず、知財や採用の領域で多大なサポートをいただいています。

現在、グローバル・ブレインのバリューアップチームの方々からは、「Our team(私たちは同じチーム)」だとおっしゃっていただいて、本当に一つのチームとして一緒に事業ができている感覚があります。

百合本:ありがとうございます。特に我々の知財チームは、世界でもトップクラスだと自負しています。あのチームの構成メンバーは非常に優秀で、機動力のある人たちばかり。単にオフィスに留まっているだけでなく、積極的にイベントに参加したり、情報を取りに行ったりしているんですよ。オフェンス戦略(※自社の特許をどのように取得し活用するか)とディフェンス戦略(※他社の特許侵害リスクを回避し、自社を守るか)の両面で支援ができます。

例えば、日本国内の競合だけでなく、将来海外に進出する時のために、海外の競合の登記情報まで全て調べて分析する。このやり方は他のVCには真似できない、まさに我々の強みであると考えています。

矢本:ただ、グローバル・ブレインの価値は、バリューアップチームへの期待はもちろんありますが、それだけではなく「資本の色」があります。先ほども話したように、結局、誰から出資を受けるか、どういう人なのかという点に、最大の期待があると思っています。我々の今回の期待は、「小売の未来を拓く」というミッションを、我々と同じように長期目線でコミットできるチームかどうか、でした。グローバル・ブレインに出資していただいたという関係性の中で、時間をかけて一緒に時価総額を上げていくことをやり切りたい、と思っています。

そして長期で事業を行う上では、バリューアップチームに私たちが依存してしまっては、本末転倒です。できるだけ期間を区切って、早めに自立できるよう伴走いただくのが本来のあり方だと考えます。、

百合本:矢本さんがおっしゃるとおりで、私たちのバリューアップチームの目標は、いつまでも私たちが支援を継続することではありません。私たちが持っているノウハウを投資先の方にどんどん移行していって、最終的には自立して事業を推進できる体制を作っていただく。それが我々と投資先の皆さんとの関係が長く続く一つの形だと思っています。そのためにも、最初はできる限り深く関わらせていただきますよ。

矢本:早速知財チームは「次はこれをやりましょう」とスピーディーかつ積極的に提案をしてくれているので、本当に心強いパートナーですよね。

産業そのものを変える企業になる、と期待している


──百合本さんからは、10Xの「粘り強さ」を評価しているとお話がありました。こうした「長く戦う会社」ならではの戦い方で大事なことや、期待していることはありますか?

百合本:10Xの会社のビジョンやゴール設定は、非常に高いところに置かれていると思っています。我々は、その実現のための成長資金をきちっと出していきますので、さらに大きな成長を目指してほしい。
もちろん私達にもLP投資家がいるので、短期的な視点も気にしなければなりません。ただ、最初は「いつまでにこれをやってください」といったことは、私達からは申し上げません。まずはどうすればお互いにとって良い結果になるかを考えることが大事で、IPOなどのわかりやすいゴールはその先にある、と思っています。

──百合本さんから見て、「長く戦う会社」ならではの面白さは何だと考えますか?

百合本:ラクスルがレガシーな印刷業界を変革しているように、10Xは食品小売業界というレガシーな産業の構造改革を進めようとしている。簡単なことではありませんが、こうしたチャレンジができる会社は、そう多くはありません。そして、その先には大きな成長があります。

矢本:どの会社にも導入できるようなSaaSは、今の世の中に数多く存在します。一方で、僕達は食品小売産業に絞って、この産業に特化したソフトウェアサービスを展開している。本当の意味で人々の生活や産業そのものを変えることができるのは、私達のような企業だと思っています。

百合本:産業を変えていくというのは、困難ながら非常にやりがいのあることですし、我々としても投資決定における重要なキーワードの一つになりました。VCといえど、潤沢に資金があるわけではありません。だからこそ、社会的に意味のある会社に、きちんと資金投下していきたい。そのような観点からも、10Xを選ばせていただきました。

──現在、マクロ情勢の不確実要素が大きくなる中で、数年前に比べるとベンチャー界隈の盛り上がりは一旦落ち着いているという声もあります。長年この業界を見てきた百合本さんから見て、今の環境はどう思われますか?

百合本:私は、むしろこんなときこそ「大チャンス」だと思っています。リーマンショックの時もそうでしたが、ダウントレンドの期間はプレイヤーが減るので競争が緩みます。人も流動的になり、採用もしやすくなる。あとは資金調達能力さえあれば、そこで勝ち抜くことができます。
例えば、現在米国では多くの企業がレイオフを行い、新規採用を控えている状況です。つまり、日本のスタートアップからすると、海外からの投資や海外の優秀な人材獲得の機会が増えている、とも言えますよ。

最終的には、満場一致で10Xへの投資が決定


──改めて、今回の資金調達を振り返っていきたいです。

山田(10X CFO):去年の1年間は、我々10Xにとって相当な体質改善が求められた年でした。産業構造を変えるには、今後も長く戦い続ける必要があります。そして、我々経営陣や従業員はこれからも産業変革を目指し孤独に戦うタイミングが何度も訪れると思います。だからこそ、そんな我々を「Our teamだ」と言ってくれるグローバル・ブレインにパートナーになっていただけたのは、非常に心強いですね。

──「長く戦っていける」という点は、今回の調達における重要なポイントだったのでしょうか?

山田:グローバル・ブレインは、やはり産業全体にベットするからこそ、「長期で入る」という目線を持っていらっしゃる。長い時間軸で会社を捉え、事業の「大きさ」「高さ」を重視されているんです。だからこそ、あえて私たちは今回の資金調達の中で、IPOのタイミングも長期にする、という点を事業計画の数字も織り込んだ形で明確に提示して、臨みました。それに共感してもらえるかどうかが、今回の資金調達では大きなポイントだったな、と思います。

矢本:グローバル・ブレインは、まさに私たちが目指す長期的な視点での事業成長を評価してくれたと、感じています。短期的なバリュエーションや売上目標を追うのではなく、5年、10年、15年かけていかに大きな産業のパイを取っていけるかという議論が中心でした。そういった長期視点の計画であっても、きちんと評価してくれたからこそ、私達も覚悟が決まりました。

百合本:私は矢本さんと会った時点で「10Xに投資したい」と思っていました(笑)。でも、グローバル・ブレインは私だけの会社ではない。投資の決定には、社内の投資委員会を通さなければいけません。

ネットスーパー市場の難しさや食品小売業界の利益率の低さといった点は、投資委員会でも度々議論になりました。そこに食い込めている人たちは、たしかに現時点では誰もいません。しかし、10Xは、ネットスーパーで唯一収益化を実現し、大手事業者との契約も実現しています。これまでの実績はもちろん、プロダクトをクイックに作り、泥臭く価値提供できるチームの強さも持ち合わせている。そういったファクトを使いながら、「10Xだったらできる」という点を、とにかく強調していきました。

最初は10Xへの投資に消極的だったメンバーも、議論を重ねる中でどんどん様子が変わってきて。最終的には、満場一致で投資が決定したんですよ。

泥臭く価値を届けきる人、募集!

──今回の資金調達を経て、これから特に注力していきたいことを教えていただけますか。

矢本:一つは、既存事業であるネットスーパー支援サービス「Stailer」の徹底的な磨き込みです。Stailerは成長軌道に乗りましたが、まだ課題は山積みです。特に、導入いただいた小売パートナーさんがしっかりと利益を出し、事業として継続的に成長できる状態を作ること。これは業界全体のボトルネックでもあります。

Stailerを導入すれば利益が出て、その後も成長し続けられるネットスーパーを一社一社丁寧に作り上げる。これにより、これまでネットスーパーの導入が難しかった地方の小売店でもStailerが展開できるようになります。

「日本のどこにいても、玄関先に食料品が届く」

近い将来、Stailerがそんなインフラになれるよう引き続き注力していきたいですね。

もう一つ注力していきたいのは、新規事業です。経済環境はどんどん厳しくなっていきますが、食品小売業は「生活インフラ」として維持し続けなければなりません。ただ、それを維持するためには、業界を支えるスタッフさんたちの生産性を変革させる必要があります。それを実現するための新しい製品を、とにかく早く、たくさんリリースしていきたいです。

※インタビュー後、2025/5/20に10Xは新規プロダクトを発表しました。
10XのStailerが「現場向けAI・DX」領域に進出
熟練ノウハウが必要だった商品発注が、誰でも簡単に完結。「Stailer AI発注」2025年7月提供開始

──それらを推進するために、社内の組織体制や採用方針で考えていることはありますか?

矢本:現在も、既存事業の成長や新規事業を推進するための組織はありますが、その専任者だけを求めているわけではないんです。

私たちがこれまで7〜8年かけて培ってきた、10Xならではのオペレーションを共に実行できる方。具体的には、開発プロセスであったり、小売事業者様と対話しながら顧客に使われるものにしていくプロセス、あるいは、価値を出すために必要なことを理解し、実行できる方。そういったオペレーションを通じて、ミッション達成にまっすぐ向き合える方を、様々な職種で集めていきたいと考えています。

「これまでの経歴を重視する」というよりは、今の自分たちをちゃんと「増幅」させていけるような方が、仲間になっていただけると心強いです。

山田:短期的に新しい事業ができました、契約が取れました、というのももちろん大事です。ただそれ以上に、事業を通じて小売事業者様側に成果が出て、価値を感じていただけることが重要です。

それが、私たち自身の業界における信頼資産の積み上げに繋がり、次の機会へと、そしていずれは産業構造の変革へと繋がると考えています。だからこそ、価値を泥臭くデリバーしきることに対して、楽しめる人や、やり切れる人。そんな方なら、これからの10Xと共に、日本の食品小売という生活インフラの構造を、大きく変えていけるのではないか、と思います。

(左から10X CFO 山田聡、10X CEO 矢本真丈、グローバル・ブレイン 代表 百合本安彦氏)

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